農業

農業の年収・給料はどれくらい?生計を立てるポイントも解説

就農に興味があれば、農業の年収・給料を一度は考えたことがあるかもしれません。しかし、就農を考えていても、「生計を立てられない」という言葉を耳にして不安になることも多いのが農業という業界です。今回は、実際に農家がどれくらいの収入を得ているのか、どのように生計を立てているのか、個人農家・農業法人の収入、都道府県別の農業所得額、生計を立てるために必要な考え方などを併せて解説します。

農家の収入

農家にとっての収入(農業所得)は、「農畜産物の売上高」から「生産にかかった経費」を差し引いて算出します。自営農家の場合、農作物・栽培方法・地域によって収入が変動するものです。法人・企業に属する場合は固定給となるため、大きな変動はありません。また、農業を専業にするか兼業にするかによっても収入には差が現れます。

令和元年の「農林水産省 令和元年農業経営体の経営収支(概数値)」によると、全体の農業所得の平均は121万円となっています。個人農家は114.7万円、農業法人は327.5万円です。
同じ令和元年の「国税庁 民間給与実態統計調査」によると、日本の平均年収は436万円。これだけを見ると、農家の収入は比較的低いことが分かります。

専業のほうが収入は高くなりますが、農業一本で生計を立てるには経営の手腕が問われます。全国新規就農相談センターのアンケートによると、およそ7割の農家が「農業所得だけでは生計が立てられない」と回答しているのが現状です。

出典:
農林水産省 令和元年農業経営体の経営収支(概数値)
国税庁 令和元年分民間給与実態統計調査
全国新規就農相談センター 新規就農者の就農実態に関する調査結果-平成28年度-

個人農家の収入

個人農家の平均データを見ると、赤字を出している業種はありません。農業所得が高いのは酪農820.0万円(利益率13.4%)、ブロイラー養鶏674.7万円(利益率8.3%)、養豚587.8万円(利益率10.7%)となっています。上位3つは経営費も高く、労働時間も長くなる傾向があります。

一方で、農業所得が低いのは水田作12.8万円(利益率4.7%)、採卵・養鶏66.5万円(利益率1.9%)、露地花き170.3万円(利益率24.7%)となっています。

<個人経営体の農業経営収支>

農業形態 農業所得(万円) 粗利益(万円) 経費(万円)
全体 114.7 666.4 551.7
酪農 820.0 6140.0 5,320.0
ブロイラー養鶏 674.7 8,093.7 7,419.0
養豚 587.8 5505.1 4,917.3
施設野菜作 402.3 1,459.1 1,056.8
繁殖牛 329.4 1,606.1 1,276.7
施設花き作 314.5 1,436.9 1,122.4
肥育牛 232.8 6,422.8 6,190.0
畑作 224.9 1,005.7 780.8
果樹作 181.5 604.1 422.6
露地野菜作 174.4 841 666.6
露地花き作 170.3 688.8 518.5
採卵・養鶏 66.5 3,427.1 3,360.6
水田作 12.8 274.2 261.4

出典:農林水産省 令和元年個人経営体の農業経営収支(全国・1経営体当たり)

農業法人の収入

農業所得が高いのはブロイラー養鶏5,048.6万円(利益率16.9%)、酪農2,378.8万円(利益率9.4%)、養豚1,616.5万円(利益率4.3%)です。

一方、農業所得で赤字となっているのは、採卵・養鶏経営△3,092.1万円(利益率△7.3%)、施設花き作△323.0万円(利益率△4.6%)、露地野菜作△320.0万円(利益率△6.0%)、施設野菜作△286.6万円(利益率△5.4%)、露地花き作△22.3万円(利益率△0.6%)となっています。

<法人経営体の農業経営収支>

農業形態 農業所得(万円) 粗利益(万円) 経費(万円)
ブロイラー養鶏 5,048.6 29,959.3 24,910.7
酪農 2,378.8 25,283.0 22,904.2
養豚 1,616.5 37,438.9 35,822.4
繁殖牛 742.5 8,429.0 7,686.5
肥育牛 623.1 37,151.2 36,528.1
水田作 398.3 4,226.1 3,827.8
全体 327.5 11,719.2 11,391.7
果樹作 85.8 2,622.1 2,536.3
畑作 26.9 4,727.2 4,700.3
露地花き作 △22.3 3,988.8 4,011.1
施設野菜作 △286.6 5,269.6 5,556.2
露地野菜作 △320.0 5,338.6 5,658.6
施設花き作 △323.0 6,952.1 7,275.1
採卵・養鶏 △3092.1 42,236.8 45,328.9

出典:農林水産省 令和元年 法人経営体の農業経営収支(全国・1経営体当たり)

都道府県別の生産農業所得額

農林水産省が発表しているデータによると、都道府県別で生産農業所得は下記のとおりです。

<都道府県別 生産農業所得の統計>

都道・県
(上位5位)
生産農業所得額
(億円)
都道・県
(下位5位)
生産農業所得額
(億円)
北海道 5,368 東京 96
鹿児島 1,481 大阪 112
茨城 1,470 奈良 135
熊本 1,442 福井 179
千葉 1,233 石川 212

出典:農林水産省 令和元年生産農業所得統計

1位の北海道は日本全体の農地面積の1/4を占める広大な大地を持ち、畜産も盛んというだけあって所得額もずば抜けています。次いでサツマイモやソラマメの収穫量がトップクラスの鹿児島県、都市部を支える生産地として農業が発展している茨城県や千葉県、阿蘇山や球磨川などの豊かな自然に恵まれた熊本県などがランクインしています。

一方、もっとも農業所得が低いのは東京都でした。東京都に次いで農業所得が低いところは、地価が高くて農地が小さくなりがちなエリアが続きます。多彩な農業を展開していながらも多くの観光地を有している奈良県、競争の激しい「米」の生産が主力となっている福井県・石川県も全国的に見ると農業所得額が低くなっています。

農業で生計を立てるために必要な収入はどれくらい?

農業で生計を立てるために必要なのは、売上と経費の考え方です。農業という1事業の経営者になれば、たくさんの収入を得ても生計を立てられるとは限りません。経営者にとっての「収入」とは売上から必要経費を差し引いた額であり、生計を立てるには経費から逆算して収入目標を設定する必要があるからです。

栽培方法や農畜産物に優劣はありません。どの農畜産物を手掛けるにしても、農業で生計を立てていくためには、売上や必要経費を目先の数字として単体で捉えるのではなく、全体を俯瞰して、売上と経費のバランスを長期的に保つことが大切です。

出典:農林水産省 令和元年個人経営体の農業経営収支(全国・1経営体当たり)

農業の「3K」はもう古い

農業における3Kといえば「キツい・汚い・かっこ悪い」。ほかにも「危険」とか「稼げない」といったさまざまなKがつけられていますが、いずれにしてもよいイメージはなく、若者の職業選択時に「農業」が入ってくることはなかなかありませんでした。

しかし、それも過去の話です。農家の平均年齢は高く、就農人口もじわじわと減っているという現状ですが、農林水産省による新規就農者調査によると、2018年時点で49歳以下(若年層)の新規雇用就農者・新規参入者の割合は増加傾向にあります。農業を志す若者が増えた理由として、農業法人が増加したことが後押しになりました。いわばサラリーマン的に農業に携わるチャンスが生まれ、職業に悩む若者の選択肢の1つとして選ばれるようになったのです。また、就農人口を増やすために国がさまざまな支援を行うようになり、農業で生活を営むハードルが下がったことが理由として挙げられるでしょう。

そして、「3K」のイメージが少しずつ変わってきたことも、若者を就農に向かわせる理由として大きな要因といえます。今では農業の3Kとして「感動」、「かっこいい」、「稼げる」といったポジティブな言葉を挙げる人も増えています。

もともと、ネガティブな「3K」が生まれたのは高度経済成長期でした。若者が都会に進出し、サラリーマンにあこがれを抱いていた時代です。しかし、就職氷河期を経て就職難が続いたことと、終身雇用・年功序列という日本型雇用が崩壊したこと、インターネットの発展によって個性的なライフスタイルを目にする機会が増えたこと、副業がスタンダードになったことなど複合的な要因が重なり、農業のイメージはポジティブなものに塗り替えられつつあります。

出典:農林水産省 平成30年新規就農者調査)

未経験から農業に転職できる ?

農業はまったくの未経験であっても転職できる可能性があります。未経験のうちは、専業農家や農業法人で雇用されてスキルを磨くことがキャリアプランとしてはスタンダードでしょう。

現状では就農人口が減っているだけではなく、少子高齢化に伴って労働力人口そのものが減少傾向にあるため、どの業界でも採用競争が激化しており、経験者を採用するのが厳しい状況が続いています。そのため、生産に携わる専業農家や農業法人は、農業経験のない人材を育てることを前提に人材採用計画を立てているケースがほとんどです。

就農までの流れ

未経験でも転職の可能性がある業界とはいえ、思い至ったらすぐに就農できるわけではありません。何も知らない状態でいきなり飛び込むと、現場に出て「こんなはずじゃなかった…」とギャップを感じやすく、せっかく就農してもすぐに辞めたくなってしまう可能性は否定できません。新規就農であればなおさらのことです。

もし就農を希望するのであれば、まず農業に関する情報や基礎知識を収集することが大切です。学生さんであれば農業について学べる学校を選択するのも1つの手段ですし、社会人の方であれば近くの相談窓口で助言を受けることもできます。セミナーや現地見学で就農の方向性を固め、農業インターンシップといった体験を通して技術やノウハウを習得して就農に臨みましょう。

未経験者に求められているもの

採用する側にとって避けたいことは、雇用した人材がすぐに辞めてしまうことです。採用活動にはそれなりに時間もコストもかかりますし、未経験者を育て上げるためにも多大な労力を要します。まして農業は人材の定着率が低い業界ですから、すぐに辞めてしまいそうな人材を採用したいとは思わないでしょう。

採用者は、「本当に続くだろうか?」、「ギャップを目の当たりにして失意を感じないだろうか?」、「モチベーションを維持できる人だろうか?」と考え、これらをクリアできる人材を探して選考を行っています。

農業は遊びではなく、ライフスタイルの一種でもなく、れっきとした「職業」です。面接を受ける場合は、農業という職に就く心構えができていることを伝え、なぜこの業務内容に興味を持ったのかきちんと説明できるように準備しておくことが大切です。

面接時に聞いておくべきこと

未経験者の離職原因で最も多いのは、「就職後のミスマッチ」です。つまり、理想と現実に大きなギャップを感じ、失意のうちに現場を去ってしまうのです。就職後に「こんなはずじゃなかった…」と感じないためにも、気になることは面接時にしっかりと聞いておきましょう。

例えば、以下のような内容を逆質問して、自身が目指す就農とズレがないか確認することをおすすめします。

  • 仕事の評価制度・昇給の可能性など
  • 支援制度・手当など
  • 業務時間帯・シフト制の仕組み
  • 年間スケジュール(農繁期のタイミング)

兼業農家をやりたいと思ったら

農業というと「専業農家」をイメージしてしまいますが、ほかの仕事と兼業するという選択肢もあります。それが、「兼業農家」という働き方です。兼業農家は昔から存在しており、近年生まれた働き方ではありません。例えば、雪国で穀物を育てている農家が農閑期に別の仕事を受けることはめずらしくありませんでした。兼業することで、農業だけでは得られない技術や経験を得て、農繁期に応用できるというメリットもあるのです。

「農業をやってみたいけど不安がある」という方は、まず休日を利用して農業をやってみるところからスタートするのも1つの方法といえます。自然を相手にする仕事ですから、机の上でいくら計画をしてシミュレーションを重ねても思い通りにいかないことのほうが多いのが農業です。家庭菜園のような自給自足ではなく、仕事の1つとして実際に農業をスタートさせることで、次第に農業スタイルを具体的に決められるでしょう。多くの兼業農家は、このようなステップを経て自分の農業スタイルを確立しています。

専業よりも収入が落ちてしまうのは仕方のないことですが、ビジネスに関する勉強を重ね、2足のわらじだからこそ得られる視点で試行錯誤を繰り返せば、農業を続けていくことも不可能ではなくなるでしょう。

サラリーマンから農業を始めるメリット・デメリット

田舎でのスローライフや自給自足の生活にあこがれて、あるいは農業をやると補助金・給付金がもらえるから、といった理由から、会社勤めを辞めて農業に転職する方も増えています。脱サラをして農業を始めると、会社員では得られなかったメリットを味わえるでしょう。一方で、人によっては農業を継続できないと感じるようなデメリットと向き合うことにもなります。

メリット:前職の経験を活かせる

どのような経歴であれ、サラリーマン時代の経験が無駄になってしまうということはありません。サラリーマンとしてどのような生活を送ってきたとしても、農業に向き合う中で活かせる部分があります。

例えば、サラリーマンには必須のコミュニケーション能力、PCスキル、業務効率化のノウハウ、リスクヘッジの発想、プレゼン能力などは、就農後も活用できる可能性があります。

企業では上司や同僚、顧客がいて、時に怒りや否定にさらされ、謙虚であることを求められます。この環境を経験するメリットは、自分を客観視しながらストイックに行動する習慣が身につくことです。これは、初めから新規就農をされている方とはいい意味で違う発想といえます。企業では当たり前の感覚も、農業の現場では当たり前ではないということは多々あります。そのギャップは、自分自身の経験を活かすチャンスでもあるのです。

デメリット:資金やノウハウがない

農地・機械設備・人脈は新規就農に必須ですが、はじめて農業に携わる場合はこれらをゼロから用意しなければならず、特に初年度の資金繰りに頭を抱えることになります。

サラリーマン時代よりも収入は大幅に減りますし、地域で信頼関係を築かなければいい条件の農地を借りるのも難しくなります。農家との繋がりがなければノウハウを得るまで未熟な技術で農畜産物を育て続けることになり、信頼関係に影響するでしょう。売上や必要経費に厳しく目を光らせ、周囲の方からノウハウを得て事業を軌道に乗せるまでは気が抜けません。

「収入」以外にも目を向けるのが営農のコツ

農業で生活を営んでいくためには、経費から必要な売上高を逆算して「農業所得」を算出し、生活・経営の両方が成り立たせる方針を固める作業が不可欠です。売上をすべて生活費に回せば経営が破綻してしまいますし、農業を営むだけに費やすと生活が立ち行かなくなってしまいます。

農家全体の年収は日本の平均年収よりも低く、農業所得だけでは暮らしていけないと感じている農家が多いのが現状です。一方で、収益力を高めて生計を立てている人もいれば、自ら兼業することを選んで農業を軌道に乗せている人もいます。栽培・育成の知識・技術はもちろんですが、農業を続けていくためには、お金の管理能力やビジネススキルが欠かせません。

農業について学ぶなら名古屋農業園芸・食テクノロジー専門学校へ

農業は、ビジネスとプライベートが地続きになる職業です。だからこそ、栽培方法や売上高だけに注目するのではなく、「営農」すなわち「農業で生活を営むこと」を考え、商品をプロデュースし、幅広い視点で改善策を講じていく必要があります。

名古屋農業園芸・食テクノロジー専門学校では、生産の力になるアグリテックに関する授業や栽培実習の授業、営農に必要な流通やマーケティングについて学ぶ授業など、食の未来をつくり、農で生計を立てるために必要な知識・技術を多岐にわたって身につけることができます。

農業に興味のある学生さんは、ぜひ名古屋農業園芸・食テクノロジー専門学校のオープンキャンパスやオンライン学校説明会にご参加ください!