卒業生インタビュー

農業×カフェ×卒業生の林亮輔さん

「食」と「農」の相乗効果!
農業を学び食材の育ち方を知ることは、食材の持ち味を引き出す力に変わります

「カフェ経営者」と「農家」という二足のわらじを履く林さんは、農業に携わるようになり、お店で扱う食材の見方に変化が生じたといいます。
食材が育っていく過程を知ることで、その食材が持つ本質を見抜く力を養えたことが理由だと語ります。

夢を追いかけて飲食業の門を叩く

私は大学ではデザインを学んでいたこともあり、新卒で就職したのはデザイン系の企業でした。ですが学生時代にカフェやイタリアンレストラン、創作居酒屋といった飲食店でアルバイトを経験していて、実は飲食業に対する憧れも持っていたのです。そのため入社後しばらくしてからは、平日はデザインの仕事をしながら土日にカフェでアルバイトをはじめ、飲食業に関わり続けていました。

そんなカフェでのアルバイトでより一層「本格的に飲食業をやりたい」「自分のカフェを持ちたい」という思いを強くした私は、2007年にデザイン会社を退職するとともに2期生として専門学校に入学しました。

同じ目標を持つ仲間たちと切磋琢磨

専門学校では、バリスタの技術や事業計画書の書き方、カフェ開業のための手順など、カフェに関するあらゆることを学びました。入学した「カフェ・ビジネス科」という名前の通り、私を含めて周囲はみんな「仕事としてカフェと向き合って開業するんだ!」という思いを持っている方ばかり。社会人だった私が若いくらいでしたが、年齢の壁を感じることなく同志として知識と技術を高め合うことができました。

他にも、夏に経験したインターンシップもとても思い出深いです。私は東京都の六本木にあるバルでインターンシップを経験させてもらったのですが、全国でもトップクラスの現場を経験したことは非常に学びになりました。“バリスタの伝道師”とも言える人のもとで働いているバリスタの方々が、とても輝いて見えた。華がありましたね。学校生活の中で、最も刺激を受けたことのひとつです。

また在学中に、仲間とともにバリスタの大会に出場したのも大きな経験でした。学校ではプロのバリスタを講師として招いてもらい、大会に向けてバリスタ技術の向上に励みました。本番では不本意なタイムオーバーなどもありましたが、出場した学生の中ではかなり上位の結果を残すことができたと思います。そのとき培った技術は、農家との兼業を始めた今でも「錆びついた」なんて言わせない自信はあります。

複数の業種に精通する“6次産業”のシナジー

学校を卒業してから半年ほどした頃、2008年に24歳で自分の店をオープンさせる夢を叶えることができました。このとき店舗のインテリアや店内POP、メニュー表なども私自身でデザインしました。デザイン会社で働いていた経験を活かせる機会ですしね。私の「デザイン会社→カフェ→農家」という経歴は、他の方から見たらつながりのないように見えるかもしれません。ですが私は、様々な場面で過去の経験が役に立っているため、まったく回り道ではないと感じています。

カフェの開業からしばらくしてニンジン農家を営んでいた父が体調を崩したことが、現在の農業の道に進むきっかけでした。父の農業を継ぐことを決心し、カフェオーナーから1.5ヘクタールの農場を持つ農家となったのです。農家に転身してからは、父から農業のノウハウを学びながら、しっかりと年間の栽培計画を立てたり経理や事務のような「ここはもっと改善できそうだな」という裏方の作業効率の改善にも努めたりして、収益の向上に取り組みました。その甲斐もあって、現在は8ヘクタールの農場を運営する農業生産法人としてニンジンやダイコンを生産しながら頑張っています。

また2019年には、本格的ファーマーズカフェ「ホカルノコーヒー」をオープン。再びカフェ経営にも進出し、スタッフ14人の6次産業企業の代表として「カフェ経営者」と「農家」という異なるジャンルを掛け合わせてシナジーを生み出すべく日々さらなる成長を目指しています。

カフェ経営と農家を兼業するメリットのひとつは、「カフェで使用する食材の調達が容易になり、原価も下げやすいこと」。農家として市場に出荷しているだけでは捌ききれなかった規格外の不揃いな野菜なども、カフェのメニューや加工品として扱えることが大きいです。原価を下げることで材料費以外の部分に資金を割くことができ、カフェを訪れるお客様の満足度を高めることができるのです。また、かたちが不揃いというだけで廃棄されてしまう野菜を使用することで、ここ最近問題視される「食品ロス」の低減にもつながっています。食品ロスを抑えることは、近年世界中で注目を集めている世界が目指すべき目標・SDGsの取り組みにもつながります。そのためサステナブル(持続可能)なカフェとして世間的な価値・評価が高まり、新たなシナジーの誕生を期待してしまいますね。

“本質を知る”ことで料理はレベルアップする

農家として毎日野菜の成長を見ていて強く感じたことは、“旬”という言葉の奥深さ。世間一般では単純に「今が旬です!」のようなかたちでPRされることがほとんどです。「ニンジンの旬は冬」「サンマは秋の魚」というイメージも強いのではないかと思います。しかし野菜の世話をしながらその変化を間近で観察していると、食材ひとつとっても、「味の旬」や「量の旬」など様々な旬が存在していることがわかります。

この学校で「農業を学ぶ」ということは、そうした様々な食材の持つ数々の旬や、そのときに最適な扱い方を学ぶことでもあります。それが、「食材の“本質”を知る」ということ。食材のことを深く知らず通年で同じ調理を続けている飲食店と、食材の本質を熟知して時期によって扱い方を変えながら「その時」の「その食材」が秘めたポテンシャルを最大限に発揮させる飲食店。後者のほうが、味の違いをお客様に楽しんでもらえる店舗になるでしょう。また、そんな変化を楽しみながら調理できることも、食に携わる仕事の醍醐味のひとつだと思います。

自身が経営するカフェでコーヒーを淹れる林亮輔さん